人生100年時代といわれ、平均寿命が延びる中で健康寿命はそれほど延びていないのが現実です。こうした時代の背景をふまえて老人ホームなどの高齢者向けの施設が多くなり、これからも増加することが予想されます。そうした施設への入居を希望するかどうかは人それぞれですが、入居を希望する人の中で大きな問題になるのが、費用に関することだといえるでしょう。
日本の年金制度について
日本の年金制度は大きく3つの階層から成り立っているといわれています。そのうち1階の部分は、国民年金といわれる老齢基礎年金です。一般的に、支払うときの名称は国民年金ですが受給するときは老齢基礎年金とよばれます。
この年金をもらえる条件は国民年金に加入していた人であるため、原則として国民全員が対象になります。次に2階部分ですが、老齢厚生年金といわれるものです。こちらの対象は会社勤めをしていた人で、勤続中に毎月の給料から国民年金以外に厚生年金も差し引かれていたため、年金をもらえる年齢などの条件を満たしたときには、老齢基礎年金にプラスして老齢厚生年金ももらえることになります。
最後に3階部分は企業年金やiDeCoとよばれるもので、こちらの受給条件は該当の年金に加入していた人になっています。老齢基礎年金と老齢厚生年金は、年金を受け取れる年齢である65歳から原則として受給することができてその後も一生受け取ることができますが、3階部分の企業年金などに関しては、各企業の制度やそれぞれの年金の制度によって受け取れる期間が異なっているため注意が必要です。
また、国民年金の保険料を納付していた期間や免除されていた期間が10年に満たない人は、年金の受給資格を満たしていないため、厚生年金も受け取れないことになります。
もらえる年金額について
将来もらえる年金に関して気になるのはもらえる金額ですが、2018年のデータによると、国民年金分を含めた厚生年金受給者がもらえた年金の平均月額は14万5,865円で、国民年金のみの受給者は5万520円でした。
また、国民年金の保険料を全額納めた人でも受け取れる年金の額は、月に6万5,141円という平均よりも少しだけ多い額になっているという2020年のデータもあります。このことから、全労働者のうちの10パーセントにあたる自営業者の人が、年金受給資格を得てから自営業を引退して年金のみを頼った生活を送るのは非常に厳しいと言えます。
もらえる金額が一律である国民年金とは違い、厚生年金は会社に勤続していた年数やその時にもらっていた給料の額によって変わるのが特徴です。厚生年金の受給額の計算は複雑ですが、今現在40歳の人が20歳から60歳までの40年間を会社員として企業で働いた場合に、退職してからもらえる1年間の国民年金と厚生年金を合算した額の目安が発表されています。
データによると、年収300万円の人で142万円、年収400万円で163万円、年収500で185万円、年収700で228万円、年収1,000万円の人では242万円になっていますが、もらえる年金の額は今後も変わる可能性があり、額が減ることはあっても増えることはないといわれています。
公的介護施設の種類と費用
介護施設には大きく分けて公的施設と民間施設があり、費用は一般的に公的施設のほうが安く、公的施設の種類としては主に特養とよばれる特別養護老人ホームとケアハウスがあります。入居一時金が不要な特養は月額利用料の相場も6万円から15万円くらいで、比較的安く利用することができる老人ホームになっていますが、入居の条件として要介護度3以上が必要なため、介護度が重くなってからではないと入居することができないというデメリットがあります。
また、施設によっては順番待ちが長く、要介護度が4や5の人でも1年以上も入居を待たないといけないケースもあるため、入居を希望する施設がある場合は早めに確認しておくと良いでしょう。その他の公的な介護施設として有名なのがケアハウスですが、こちらは身寄りのない高齢者や家族との同居が困難と思われる高齢者が利用できることを目的とした施設です。
60歳以上なら入居できる施設ですが、入居一時金の額は施設や契約の仕方によって差が大きく、最初に数百万円を管理費として前納するという選択肢もあります。一時金なしで入居できる場合でも、退所時にリフォームなどの費用に数十万円が必要になるケースもあるので注意が必要です。
民間介護施設の種類と費用
民間の介護施設としては介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホームがありますが、かかる費用には施設によってかなり幅があるため注意が必要です。特に、入居するときに必要な入居一時金はしっかりと確認しましょう。
有料老人ホームの入居一時金は高級なところでは数億円にもなる場合があり、それ以外でも数千万円が必要な施設はたくさんあります。また、入居費用も月額費用も地域によって差が大きいというデータも出ています。全国平均では506万円が相場になっている入居一時金の費用は、東京都の有料老人ホームでは750万円であるのに対して岡山県では61.8万円になっています。
また、月額費用の相場も東京都と岡山県では10万円以上の違いがあります。サービス付き高齢者向け住宅の場合は有料老人ホームほどではないにしても、やはり岡山県のほうが費用の相場は安くなっています。入居時の費用が安くても、その分月額の費用が高くなるのが基本なので、事前にしっかりと確認しましょう。
ケアハウスという低所得者の味方
老人ホームを年金のみで利用しようと考えている人は、できるだけ公的施設の利用を検討すると良いでしょう。公的施設は民間施設とくらべると一般的に設備が古く、介護サービスも限定的になるというデメリットもありますが、負担する費用が少ないのが低所得者層にとっては大きな魅力です。
事務費、生活費、管理費の3つが基本となっているケアハウスの料金は、生活費と管理費は一律の額に決まっていますが、事務費は本人の年収に応じて17段階にも細かく分かれています。年収が150万円未満の人と300万円以上の人では利用料金に2倍以上の差があり、人によっては月額7万円程度で利用できます。
年金のみで老人ホームの利用を考えている人には最適な選択肢といって良いでしょう。
年金のみでは厳しい老人ホーム生活
民間の介護施設にくらべて安い費用で利用できる公的介護施設でも、すべての人が安心できるわけではないというのが現実といえます。国民年金のみの受給者の平均月額受給額は5万円ほどであるため、最も安い老人ホームであるケアハウスの料金にも届かないことになります。
今後ますます加速が予想される超高齢化社会においては、国民ひとりひとりが意識して、安心できる豊かな社会づくりを目指すことが求められるでしょう。